
SMSL VMV D1という現在142,227円にて販売されているSMSLのフラグシップDACになります。SMSLは低価格のDAC、スピーカーアンプ等で有名なメーカーで私も過去にSMSL Sanskritを使っておりかなり印象も良かったのですが、今回まさかのフラグシップDACを出してきました。
「コストパフォーマンスに優れた製品を出すメーカーが、本気の高級機を出したら凄いことになるんじゃないか」というのは結構多くの人が思うところだと思うものの、実際は高級機は採算が取れず実現しないケースが多いものですが、今回のSMSLは正にそういった思いに応える製品じゃないかなと思います。
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前置きはここまでにしておいてレビューに入りたいと思います。

最初に良い点と悪い点を簡単にまとめておきます。
良い点
・DACチップにESSの最上位ES9038PROをデュアルで使用
・電源が分離されており、電源部にはNORATELのトロイダルトランスを採用
・音質は文句なしに素晴らしい、非常に解像度が高く音の隅々まで見通せるパッと聴きでも違いの分かる質の高い音
・DACフィルターの変更だけではない音質の変更が機能があり、真空管ライクなサウンド等が選べて遊び心がある
・音量は固定と可変が選べ、プリアンプ無しでパワーアンプに繋ぐことも可能
悪い点

1、音質は非常に良好。ES9038PRO×2を採用したおかげか解像度の高さがダントツ
音質は文句なしに良いです。今まで使っていたAune S16も非常に良いDACだっただけにそこまで変化があるかなと心配しましたが、ES9038PROをデュアルで使用しているおかげなのか解像度の高さが一聴してわかるほど優れています。「解像度の高い音」というと音のエッジのキツイ派手な音だったり、小奇麗なつまらない音を想像しがちですが、そういったまがいものの高解像度ではなく、純粋に音の粒立ちの良さがしっかりと感じられる真っ当な解像度の高い音が鳴ります。例えば映像でも色を派手にして輪郭を強調したフルHDと、何の加工もしていない4Kでは強調したフルHDのほうが鮮やかに見えたりしますがそれは高解像度ではありません。このDACはそういったまやかしの高解像度ではなく、真っ当な高解像度、高精細さが音から感じられます。
音の傾向としては癖が少なく、帯域ごとに非常に忠実な音を鳴らしてくれる印象です。音の分離が非常によく、テクニカルデスメタル等の手数の多い音源でも、演奏の音数は当然としながら録音のノイズにも気付ける程の今まで体感したことが無い余裕のある音を鳴らしてくれます。録音のノイズにも気付けるといういと「録音の悪い音源聴けない」と思われる方が居るかもしれませんがそれは間違いで、録音のノイズにも気付けるほどの音であるからこそ、ボーカルの艶やかさ、音の余韻といった1つ1つの音のニュアンスに気付くことができ、今まで聴いていた音源が1ランクアップしたものとして耳に届いてくれます。

2、小型ながらも重量があり、電源が分離されている等高級感が非常にある
大きさは単体DACとしては小型なほうでありながら非常にずっしりとした重みがあり、電源が分離されていたりとオーディオ好きとしてはテンションの上がる要素の多い製品です。
オーディオ好きの方の中には「電源分離」という言葉にやたらと弱い人は多いのではないでしょうか?私もその一人でハイエンド機材に多い電源が分離された製品に一種の憧れを持っていましたが、最近は低価格機でも電源分離の製品が増えており、正直そこまで特別感は薄れてしまいました。ですが、SMSL VMV D1ずっしりと重みのある筐体、シンプルな黒いデザイン、そして特にNORATELのトロイダルトランスを採用した電源部が分離されていると、見かけだけではないきちんと「フラグシップ機材」らしさのある仕様で、正直この点だけで選んだと言えるほど魅力的な仕様だと思っています。

3、DACフィルタの変更、音質調整、音量の可変が可能など機能が多い(パワーアンプに直結も可能)
DACフィルタにより音質調整は最近のDACは大体出来ると思うのですが、このDACはそれ以外にも音質調整機能がついており「Standard」「Rich1、2、3」「Tube1、2、3」「Crystal1、2、3」と変更することが出来ます。正直そこまで極端に音が変わる訳ではないのですがTubeモードにすると、少し余韻の強調される音になったりと気分次第で音の傾向が変えられるのはなかなか楽しさがあります
。
また、音量が「固定」と「可変」が選べるようになっており、可変にすればパワーアンプとの直結も可能です。DACの音量調整でプリアンプ無しで直結なんてと思われる方も多いでしょうが、最近のデジタルボリュームはかなり進歩しており、非常にしっかりとした鮮度の高い音を奏でてくれます。
☆Aune S16、Nuforce DAC-9、HEGEL HD10との比較☆

単体の音質評価だけではわかりにくいと思いますので、今回はAune S16、Nuforce DAC-9、HEGEL HD10ととの比較をしていきます。条件としてはPC(windows)→USB接続(WASAPI)→DACと繋ぎ、そこからRCA接続でヘッドホンアンプのPHASETECH EPA-007に繋いでFinal D8000にて比較試聴をしていきます。
・Aune S16
解像度は高めでスッキリとして気持ちの良い高音域を鳴らすことが非常に好印象なのに対し、他の機種より少し低音域が軽くロック、ハードロックといった音源では少し音の密度感、力感に欠ける印象がある。解像度だけで見ればSMSL VMV D1の次に優れている印象でこの中で一番安い699ドルという価格を考えれば相当健闘していると言える
・Nuforce DAC-9
音の広がりがあり、一番音の雰囲気づくりの上手い機種という印象。解像度面では他の機種より一歩譲印象はあるが、一番オーディオらしい適度な余韻や広がりのある音を再現してくれヘッドホン特有の頭内定位が気になりにくい音であり、非常に上手い味付けの音だなと思う反面、良くも悪くも癖のある音ではある。
・HEGEL HD10
一番押し出しの強い力感のある音を鳴らす。解像度面ではそこまでではないが、ドラムのスネアやベースの音が非常に押し出しの強いノリの良い音で鳴ってくれる。ハードロック、パワーメタル等を聴く際にこの音の傾向は非常に気持ちは良いのだが、正直ノリの良さに比例するように音が全体的に少し雑になっている印象もある。
・SMSL VMV D1
解像度面で言えば一聴して分かるレベルに一番優れており、この中で一番癖の少ない音を鳴らす。一番音の焦点がハッキリした音であり、音の強調感は無いのにも関わらず1音1音が非常に輪郭のハッキリした音で耳に届き音の高精細さが聴いていて非常に伝わってくる。この4機種の中で一番面白みの無い音と評されがちな気はするが、癖が少なく、音の1つ1つのアクセントや余韻まで余さず届けてくれる非常に優秀なDACであると言える。

4、非常に高精細で癖の無い音を鳴らしてくれる、文句なしに勧められるDAC
ここまで見て頂いた方はわかるでしょうが、このDACの個人的な評価はかなり高いです。DACごとの比較も本当はもっと「ここは良くないけど、ここはこっちより優れている」と短所と長所を挙げる比較にする予定だったのですが、正直私の印象としては手持ちDACの中では頭1つ抜けた実力という印象でしたので、そのままの感想を載せました。これだけ癖が少なく、純粋な高精細、高解像度さを感じられるDACはそう多くないのではないかと思っています。
142,227円と安くは無い製品ですが「中国メーカーのフラグシップ機は凄いぞ」と自信を持って言える実力機だと思いますので、同価格帯で癖の少ない高解像度な製品を探されている方、電源分離のカッコいいDACを求めている方、そして中国メーカーのフラグシップ機に関心がある方に文句なしに勧められる名機です。